ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森

ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森
水面

それは私にとって、たゆたう一つの揺らめき。

静的ではなく、動的であり、冷やかだが、硬質な鏡というよりは、といめいな、なめらかな肌のような手触りをもつもの。そのなかで私の生は、もはや無数の光と影の移ろう連なりとなり、形なき形のままに、漂い揺れる。

水面の一線の、見上げた上から空が始まってゆき、下には、重さも、声も、眼差しをも吸い込んでゆくたゆたいがある(そして遠い水底には、たぶん地があり、もっと奥には、火の道が続いているだろう)。

風に揺れる波紋の広がりは、めぐる時の、閉じていっては開かれてゆく、幾重もの輪の連なりであり、それは夢の果てしなさにも似て、跡を留めはしない。しかし、そこで生きる私は、水の道を素足で辿る、舞いのような快さに、ゆっくりと目覚めてゆくだろう。

空と水に引き裂かれてゆく、このとうめいな一線に、言葉は束の間立ち現れ、消えてゆく。さながら、泡立つ水の影のように。沈みゆく空の息のように。そしてまた、ため息する氷の粒のように。

 

 

 

| 既刊詩集『水車のめぐる家で』 | 17:58 | - | -