ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森

ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森
彼女は眠っています

 

眠れない夜の布団をはねのけて

遠く東京に住む

友に電話をかけた

すると

耳に飛び込んできたのは

聞き覚えのない男の人の声

 

 彼女は眠っています

 どちらさまでしょうか

 

夜分遅くの迷惑を詫び

受話器の向こうの落ち着いた応対に

いくぶん 救われるような心地に見舞われながら

ただ一人の人のかたわらで

安らかな寝息をたてている

友の顔を思い浮かべていた

 

 彼女は眠っています

 あゝ あなたのお噂はかねがね伺っています

 

彼女は眠っているだろう

彼にも

わたしにも手繰り寄せることのできない

銀の糸に浸されて

彼女は眠っているだろう

 

 

 

 

 

| 既刊詩集『水車のめぐる家で』 | 16:49 | - | trackbacks(0)