ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森

ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森
星と木々の眠りと

それはわたしが初めて見た

数え切れないほどの星だった

――あれが オリオン座

  カシオペア座‥‥‥‥

双眼鏡を覗き込むと

さらに輝きと数を増してそこに広がっていた

白く 青く 赤い瞬き

手を伸ばせば

掬うことさえできたかも知れない

果てしない底にちりばめられた 星々は

見るうちに

それはどこまでも眼差しを吸い込んでゆき

いくら汲み尽しても 汲み尽すことのできない

こんこんと湧き出る泉のようにも思われた

そのとき 夜は

遠い物語となって谺していったのではないか

十二月の山頂の  冷たい空気の中に

不可思議な親しみにも似た

温かみのようなものさえ 息づかせて

 

やがてその山を下って

わたしたちの車は

灯りの乏しい村をゆっくりと通り抜けていった

その時 道の辺の一本の杉の木の眠りが

ふとわたしには 見えたような気がした

――木も眠るの?

――そう 植物にも眠りというのがあるらしいね

エンジンを止めて あたりを見まわすと

谷いっぱいの木々や 草や 庭先の花々

それらが種子の内にさえ抱いていた眠りの中から

今 星空に放ってゆく

夢が

そのときのわたしには 見えたような気がした

夜の闇が 幾条にも織り込めていた

様々な糸や玉の色鮮やかさを

心の底にも 浮かび上がらせて

 

 

 

| 既刊詩集『朔太郎の耳』 | 17:22 | - | -