ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森

ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森
砂の丘へ
気がつくとわたしたちは
さらさらと流れる砂の上を歩いているのであった
眼の前には巨大な砂の丘があり
その頂をめがけて
蟻のような人の群れが連なっている
登ってゆく列もあれば
滑るように下りてくる列がそれに入り混じる
その頂の向こうにあるものを見るためなのか
それともそこに丘があるからただ登ってゆくのか
サンダルのすきまからは
ひりひりとする砂つぶが指のまたに足うらにすべり込み
運ぶひと足ごとに
歩みは砂にとらわれ
そのまま丘のするどい斜面に佇んでいれば
化石のようにずぶずぶと埋もれていったことだろう
その丘を登りきると
潮の香がいちだんと強くなった
黄砂のまぶしい照り返しに目を細めながら
わたしたちは眼の前にひろがっているものを並んで見つめた
気がつくと
さらさらと流れる砂の上を歩いていたわたしたちの火照る足うらは
しぶきを上げて寄せくるとうめいなえきたいに
冷たく浸されているのであった
漲り うねるものは まなざしを覆い
からっぽになったじかんの中では
潮の香とどよめきだけが満ちていって
わたしたちは
その朝 ひた走る車とともに
わたしたちをこの遠い汀へとおもむかせたものに向かって
ひとり ひとり
声にならない「さよなら」を告げていった
気がつくと 空は青く
なだらかなスロープの稜線は砂塵でけむっていた
その上を日の足はゆっくりとよぎり
さらさらとこぼれる砂を運ぶ
ひとつの風は
きざまれては消えてゆく縄の紋を描きながら
数千年前と変わらず
その丘に吹いてくるのであった

 

| 既刊詩集『眠る理由』 | 21:30 | - | -