ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森

ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森
あおい夜の桃の花畑で
(だるまさんが ころんだ
記憶のシーンはそこで途切れる
あおい夜の 桃の花畑で
そしてシーンは唐突に ふたたびそこで始まる
(だるまさんが ころんだ
子どもたちの笑い声が
遠ざかったり 近づいたりする
夜のさざなみの 見えない襞のなかを
もういちどわたしたちがであうとしたなら
きっとあの晩の子どもたちのこだまのなかでだろう
あのときわたしたちは いつまでもそうしていたかった
満開の花枝の向こう
薪の炎を見つめ
ときおり星空を見上げたり 町の灯を見下ろしたりしながら
誘蛾灯の薄暗がりのどこかから聞こえてくる
子どもたちの声に耳をすます
(だるまさんが ころんだ
まなこをつぶる
ひろがってゆく静寂のなかを
桃の花だけが
南向きの斜面いっぱいに咲いてゆく
ひとつ ひとつ
いのちのしたたりのようにあでやかなその色
ほのかな香りが 甘く遠くみちてゆき
あの声が
あおい夜のどこかから
寄せて来るのを 待つ

 

 

| 既刊詩集『眠る理由』 | 12:18 | - | -