ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森

ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森
汽笛を上げたと思ったら 

汽笛を上げた

と思ったら

船はもう向こう側に着いているのであった

慣れた手つきで艫綱を手繰り寄せる男

のよく日焼けした顔

向こう側は船の錆びた腹の接岸とともに

私たちの足の先で

見知らぬ道をうねうねと広げていくのであった

とはいっても

小さな島のことゆえ

私たちの車はすぐに寂れた波止場や

路地の行き止まり

誰もいない「ふくしせんたー」と書かれた

看板の前にたどり着き

UターンのあとにUターンを繰り返し

「つまらなかったわ」

「釣竿を投げたと思ったらうじゃうじゃと鯛が食いついて」

などといった 声を残して

まな板の上では

透き通った眼をした桃色の生き物がぴちぴちと横たわり

ああ 向こう側はこちら側だったんだな

と自分の身の切り刻まれていくさまを

遠い島の幻のようにも

いさぎよく眺めているのであった

 

 

| 既刊詩集『スクラップ―に捧ぐ』 | 18:13 | - | -