ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森

ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森
Tea Break

本場イタリア仕込みの味が評判の

ピザ屋からは歩いても十数分の距離だったけれど

二台の車に乗り合せて

向かった「旅館くらしき」の喫茶室

門をくぐり 植込みのまだらな影をぬけると

待ち合わせの店はそこに凛とあって

黒光りする椅子や円卓の面を指でなぞり

ガラスケースの中の

カメラのコレクションを眺めていても

十分経っても着くはずの彼女たちは現れない

白いパラソルを広げて

一人捜しにゆき

帰って来てはまた別の一人が

パラソルとともに木立の向こうに消え

時間の落とし穴に迷い込んでしまったような

奇妙なTea Break

 

彼女たちを待つ

わたしたちの他には客とてなく

失意と戸惑いの微笑で腰を掛ければ

活けられたカサブランカの白い大輪は

静けさのなかを

息苦しくなるほど

濃く深く

匂いを重ねていって

 

あのまま もしも

捜した人も捜された人も

青柳のそよぐ白壁の街角を

記憶の迷路をたどる旅人のように

いく曲がりかして 行き逢えなかったとしたなら

そこから六つのショート・ストーリーが

ゆるやかに歩きだしていったことだろう

 

耳傾ける仕草の

カサブランカのかたわらで

何事もなかったかのように

彼女たちは午後の紅茶を涼やかにすすった

 

 

 

 

 

| 既刊詩集『スクラップ―に捧ぐ』 | 18:08 | - | trackbacks(0)