ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森

ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森
彼女たち

彼女たちはいつも電磁波のシャワーを浴びている

彼女たちはときどき体の具合が悪い

妙な席や腹痛を抱えている

彼女たちの眼はたぶんドライアイ

ポーチの中には目薬が欠かせない

彼女たちの指はシャカシャカと忙しなく動く

その十本の指は時代の末端なのだ

数値に置き換えられてゆくあなたの人生

いつ生まれて

どこに住んでいて

いつどんな病気になったのか

どれだけ稼いで どの歯を治したか

(死亡通知はまだ届かない)

あなたに割り振られた記号番号

あなたはデータの一部

数値の網の目が隙間なくあなたを覆う

あなたは知っているだろうか

(あなたは逃げられるだろうか)

見知らぬ誰かによって

あなた自身が知り尽くされているかもしれない

ということを

 

ビル十階のフロアに並べられた画面の前に座る

彼女たちは電磁波のシャワーを浴びている

彼女たちの眼はドライアイ

シャカシャカとキーボードを叩く指は時代の末端

端末の白いコードが彼女たちの柔らかな体を操る

勤勉な彼女たちは眠り 起き そして働く

そのあいだ

街路樹の木々に季節はめぐり

空では雲がゆったりと流れる

救急車のサイレンが西から東へと走り去り

誰かの腕の中で

チャコールグレーの子猫が目を覚ます

 

 

 

 

 

 

| 既刊詩集『スクラップ―に捧ぐ』 | 15:55 | - | trackbacks(0)