ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森

ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森
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『アンコール・ワットな日々』 【1】始まりのはじまり

 あれから早、一年が経とうとしている。

 というより、年が明けたので、正確には一年半の時間が経過したことになる。

 映画『地雷を踏んだらサヨウナラ』を観たのはいつのことだろう。1999年に制作され、浅野忠信が報道写真家一ノ瀬泰造を演じた映画を私が観たのは、世紀の変わり目のどの日だっただろうか。1970年頃からの長引く内戦や、ポルポト政権下での多くの犠牲者のニュースの記憶もいまだ生々しいカンボジアの、密林の中にある遺跡ー―アンコール・ワット。そこは、テレビや映画や写真などの映像の向こう側にある、謎と危険に満ちた、日常とはかけ離れた世界のように思われた。

 「アンコール・ワットに行こうと思うんだけれど」という娘のの言葉に、即答で反応したのは、たぶん私の中で眠っていた、そんなひとつの場所への興味のようなものが揺り起こされたためだろう。

 娘が初めての海外旅行を、アンコール・ワットのあるカンボジア王国にした理由ははっきりとは聞いていない。友人とフリープランでヨーロッパに行こうと計画していた矢先、中東やアフリカなどからの難民の移民問題が起こり、テロ事件が頻発するなか、11月にはパリで同時多発テロがあり、何回か行先や時期の変更を考えざるをえなかった。そして、彼女がようやく決めた場所が、東南アジアのインドシナ半島にあるアンコール・ワットだった。けれど、旅慣れた娘の知り合いからすれば、そこは「ヨーロッパやアメリカ大陸などいろいろ旅した後で行く所」でもあったらしい。その意味するところは定かではないが、かつて地雷が埋まって危険だったアンコール遺跡は、1992年に世界遺産に登録されたこともあり、いつか行ってみたい美しい景色の一つになっていたようで、実際に調べてみると旅行プランもいろいろと充実していた。

 その観光ツアーの中の一つに、出発の一カ月前にギリギリのタイミングで予約を入れ、その後、ゴリ押しで仕事の休みをもらった。ビザの電子申請をはじめとして、旅の準備の主な部分は、時間に余裕のあったがしてくれた。さらには、図書館や書店でガイドブックや遺跡関連の本を漁って、私の乏しい知識を補ってくれた。必要であろう旅の買い物もどうにか済んで、あっという間に、出発の当日はやってきた。

 私としても、その前の年に夫と台湾に行ったのが、初めての海外旅行だったので、案内役としては役に立ちそうにもない。英語もカンボジアのクメール語も、ほぼチンプンカンプン。安全面を重視してそのツアーを選んだとはいえ、いろいろな不安を抱えつつ、けれど、娘の手前は平静を装って、2016年6月、出発の朝は来た。

| エッセイ | 15:25 | - | trackbacks(0)
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