ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森

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『アンコール・ワットな日々』 【7】アンコール・ワットの夜明けとストールと

 朝五時半。携帯の目覚ましで起きる。まだ外も暗い。昨夜はぐっすりと眠れたようだ。アンコール・ワットの夜明けを見て、その後、観光客がまだ混みあわない時間帯に第三回廊をめぐるためだ。朝食はその後で、ということになる。運転手が今日からTさんになる。寡黙だが、にっこりとはにかむように笑う若者だ。

 ホテルや旅館レストランなどが軒を連ねる通りを数ブロック過ぎると、町ははや、田畑に民家が点在する長閑な景色となる。ときおり建設中のホテルやショッピングモールの建設予定地の更地も見かける。

 カンボジアの観光資源である遺跡群を巡るには、4USドルの入場用ホルダーが必要で、「アンコール・エンタープライズ」という大きな建物でその手続きをする。入場証のために撮られた自分の写真が、カバおばさんのようで私は気に入らず、首にぶら下げていたそれを提示する度にうんざりする。Jの写りはそれほど悪くなかったようだ。

 現在のシェムリアップ近郊の遺跡は、もちろんジャングルのただ中にあるのではなく、ホテルからもそれほど遠くないようだ。空港からホテルまでが15分ほど。ホテルからアンコール・ワットまでも距離的にはそれぐらいだろうか。

 遺跡に着くと、空が白んでいる。天気がよければ見えるという薔薇色の朝焼けだが、あいにく雲が空を覆っている。西塔門の表参道の前に立つ。参道の先、左右の壕堀の向こうに、ヤシの木とともに聳え立つ、いかにも「アンコール・ワット」という景色がある。早速、娘のJがその写真を撮ろうとする。写真が好きなJは、一眼レフを持ってきたかったくらいなのだが、今回はコンパクトなLUMIXにしていた。デジタルだがレンズはライカだ。けれど、カメラを構えたJの後ろから、「写真を撮りましょう 」というMさんのソフトな声。そして、彼によって一枚目の私たちの記念写真が、アンコール・ワットをバックに撮られた。

 ガイドとしては、むろんサービスの一環だったのだろう。けれど、シャッターチャンスを逃したJの表情は、空のように曇って見える。というより、そんな記念撮影が幾度も重なるうちに、彼女の表情は時に不機嫌にさえ見えた。今から思えば、写真が趣味なので自分たちのタイミングで撮ります、とでも最初から伝えておけばよかったのかもしれない。

                                       (【7】続く)

          

         

 

 

| エッセイ | 10:33 | - | trackbacks(0)
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