ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森

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『アンコール・ワットな日々』 【12】薔薇色の砦――パンテアイ・スレイへ

 ホテルに帰って、朝食を摂り、軽く休んでから、国道を走ってパンテアイ・スレイへ行く。

 カンボジアは5月から10月が雨季で、11月から4月は乾季であり、年間の平均気温が27度。観光客は乾季が多いそうだ。朝と比べると日中はやはり陽射しが強い。けれど、雨季のピークではなく、蒸し暑くはないので、観光するにもどうにかしのげそうだ。

 アンコール・ワットから20数km離れたプノン・クレーンの麓の森の中にあるこの寺院は、10世紀後半、主に赤色砂岩と紅土で造られているといい、全体に赤っぽい。ガイドブックなどで薔薇色と称されているのも頷ける。ジャヤヴァルマン5世が建立し、直訳すると「女の砦」だそうだ。バラモン僧ヤジュニャヴァラ―ハが建設の指揮をしたというこの小さな寺院を有名にしているのは、壁面を埋め尽くすような細かくて深めの浮彫であり「東洋のモナリザ」と呼ばれる女神像であるという。

 東塔門まではリンガ(男根)を表す石柱が並んでいる。北経蔵の破風やまぐさ(リンテル)や南経蔵の切妻壁などに、描かれた彫刻のモチーフはクメール神話からで、神々や動物や人、唐草模様などが描かれている。中央神殿にはラーマーヤナ物語の守護神ドバラ場バーラの男性像もある。「東洋のモナリザ」は中央神殿の祠にひっそりと立っていて、「ここですよ」と案内されなければ、見過ごしていたかもしれない。ロープが張られていて近づくことはできなかったが、、思ったよりも小ぶりだったせいか、穏やかな表情はつつましく、心持ち左に傾げた顔は少女のようだ。1923年、フランスの小説家アンドレ・マルローは、その美しさに魅了されて盗掘事件を起こし、その時のことを1930年に『王道』という小説に書いた。後年ドゴール政権下では、過去の過ちはさておき、文化相を長く務めたという。

 ガジュマルの林の中を歩いていると、Mさんがこんもりとした砂の盛り上がりを指差した。蟻塚だという。今まで見たこともないくらいに大きい。

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