ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森

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『旅する男の物語』【5】白い卵と眠れる巨人たちの夢

                    ――イースター島行――

 

太平洋に浮かぶその島に吹きつける風は

荒々しい息吹だった

この星が靄のようなガスと雲に包まれ

火の山の時や 氷と巨獣たちの時を過ごして

羊水のような海を湛えた時から

彗星の長い尾のように渦巻き めぐっている風

妻と二人

海に浮かぶ花びらのような島々のあとで訪れたこの島には

数え切れないほどの巨大な石の像たちが眠っていた

その島には

石となった巨人たちの眠りが

唐突な夢のように

山肌に 海辺に 道の脇に

小石でもあるかのように ごろごろと転がっていたのだ

ある像は頭だけを出したまま

あるいは胸から上だけで あるいはうつ伏せに倒れたまま

なかには石切り場で切り出されることなく眠っている像さえあった

まるでメドゥーサの呪いにかけられた人の群れのようだった

生きていた時の面差しを残してたたずむ彼らの

けれど彫りの深い顔の口は固く閉ざされ

眼孔に眼(まなこ)は失われていた

その上を三つの山の火山灰は覆い

草は羽毛のように葉と根を茂らせていた

かつて白い卵のような両眼を嵌めた時

かれら巨人たちは自分の足で歩き出したという

その眼から発される「マナ」は災いを退け

村人の暮らしを守ったという

けれどいつの日か眼は失われ

内側に向かって深く閉ざされた闇の中で

時は眠れる蛇となって太いとぐろを滑(ぬめ)らせる

その奥で失われた彼らの言葉

ロンゴロンゴ文字の祈りや歌が地鳴りとなって唸り

アナカイタンガタの洞窟では

遠い生き物たちが松明の火影でうごめく

 

かつてこの島に西の果てから船が流れ着いた時

オロンゴの崖から次々に飛び立っていったのは

この島に住んでいたという鳥人たちではなかったのか

その時 島に眠る巨人たちのうめきとも叫びともわからぬ地響きが

砕け散る波濤のように空の壁に轟いて

紺碧の海の上にいくつもの渦巻きを描いていったのではないか

 

崖に飛び交うグンカンドリの数知れぬ白い卵の殻の中で

飛び立ったまま戻ってくることのなかった

鳥人たちの夢がまどろんでいる

その島にあるという「世界の臍」から

忘れられた言葉たちがゆっくりと這い出してゆく

その時まで

 

 

 

 

 

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