ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森

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『アンコール・ワットな日々』 【26】象と蝶と四面仏――アンコール・トムへ

 シェムリアップでの最後の日。二日目夕方のスコール以外、好天に恵まれていたが、この四日目は、なかでも青空が輝くような快晴だった。

 この日は朝から観光した後、夕方には空港に行かなくてはならない。Mさんの提案で、午前と午後にまたがっていたアンコール・トム遺跡での時間を、午前中に短縮して、その分午後は私たちの好きな所に行きましょう、ということになる。Mさんはたぶんトレンサップ湖周辺の自分の育った町なども案内したかったようだ。過去の遺跡を見るのもいいけれど、そういった水上生活をしている集落を訪れることは、現在のカンボジアの姿を知る上で、貴重な体験になったかもしれない。けれども、ショートステイの旅ではあるし、それはまたの機会にでも、ということで、午後はやはりアンコール・ワットで過ごすことにした。トゥクトゥクにも乗ってみたかったので、Mさんの知り合いの運転手さんに連絡をとってもらったが、あいにく午後はその人の都合がつかなかった。

 アンコール・トムは12世紀後半、アンコール王朝の絶頂期を統治したジャヤヴァルマン7世によって建てられた都城で、「トム」は大きいという意味で、アンコール・ワットのおよそ5倍の大きさがあるという。建築様式としては「バイヨン様式」に分類される。都城の中心である仏教寺院の上部テラスにある、巨大な顔を持つ四面仏塔で有名だ。

 高さ8メートルのラテライトの城壁に囲まれ、その外側には環濠がめぐらされている。1辺3キロメートルある都城は5つの門を持っている。その中の南大門の前の参道の、右側には阿修羅像、左側にはデーヴァ(神々)像が並び、その像たちがナーガ(蛇神)で綱引きをしている。それらの像の頭だけが白っぽい灰色だったりするのは、内戦時に壊されたために、その後修復したのだという。

 南大門から歩いて進むとバイヨン寺院が見えてくる。回廊の外側のテントの下では遺跡の修復作業が行われている。「JASA」という日本の遺跡救済チームだという。バイヨンにはすぐに入らずに、ツアーの目玉でもある「象に乗る」ため、木陰で待っている1頭の象の所に行く。象使いの人は赤い服に鍋のような帽子をかぶっている。象に乗るの私も娘も初めてで、階段を昇って、象の背中に載せられた椅子におそるおそる座る。象使いのおじさんが象の首に跨り、足の指を大きな耳にかけると、その巨大な動物はゆっくりと動き出した。手に調教棒のようなものも持っているが、耳に載せたその足の動きで象を操っているようだ。

 バイヨン寺院の周りをゆっくりと象の上から眺める。象に乗った私たちは周りの観光客からはちょっと珍しがられて、スマホなどで写真を撮られた。降りる間際、おじさんの赤い服の背中にチップと書いたポケットがあるのが眼についたので、心ばかりだが渡した。意外だったのか、「チップ!」と言って笑われた。余談だが、娘はおじさんが足で象を操りつつ、ずっと指で自分の鼻をほじっていたのが気になったらしい。

| エッセイ | 11:33 | - | -