ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森

ニライカナイ 〜川井豊子の詩の記憶の森
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未刊詩集『白へのオード』 【5】白きもの

冬の雲の中で、わたしたちは生まれた。

湿り気を帯びた暖かな風が、空の高みで六角形に結ばれる。六つの腕はそれぞれに新しい腕を求め合い、結ばれてはまた新しい腕を求めて、穏やかに舞うものとして、地を訪れる。わたしたちはともに落ちてゆくもの。けれど同じ母を持ちながら、その一つひとつが異なる顔を持つ。わたしたちは白い。目も眩むほど。けれどそれは光を纏ったわたしたちの柔らかなむきだしの腕が白いだけ。あなたの眼に、そう映るだけで。

じっさい、町の灯が点る夕暮れにはわたしたちは青ざめてゆくし、垂れ込める雲の微かな光の移ろいのなか、グレーや紫に見えることもある。晴れた朝には、無数の氷の粒――わたしたちの面は虹のプリズムとなっているだろう。白と呼ばれながら何色でもないもの。けれど降り積もってゆくわたしたちの下で、山は、町は、見るうちにひとつの色――白に染まってゆく。羽毛のように、わたしたちは軽やかなもの、そして自らの重みに耐えかねて、雪崩れ落ちてゆくもの、命や形を瞬時に奪って。音もなくわたしたちは訪れ、というより、音を吸い込みながらわたしたちは舞ってゆく。

(この舞踏は静寂だ

 この白きものは 静寂だ)

あなたはわたしを知っているという。あなたの眼差しの中の、それはわたしに似ているだろうか。それは、わたしたちだろうか。蝶のように、ひとひらの花のように、あるかなしかの風の足跡のように、あなたの眼差しに映る、白きもの。あなたのなかに温かく漂い、時の流れの中で、結ばれては冷やかさとなり、見上げる何もないはずの空から、限りなく舞い降りてゆくもの。

| 未刊詩集 | 22:54 | - | -